現代文学・エッセイ 2

『星まんだら』 『星戀』  野尻抱影

どちらもネットの古書店で入手した絶版本。
のわりには、お値段も手頃で状態もよく嬉しさ倍、なのですv

氏の星に関する著書は、すでに何度もここで 取り上げてます が、『星まんだら』 (徳間文庫) は、星そのものという より、星を通じて知り合った人々、文献探しの過程で出くわした妙な出来事 など、著者の生身度 (笑) が高い随筆集。
ファンには、こういう1冊も大変嬉しいですねv
志賀直哉、岩野泡鳴、相馬御風、新村出など、どこかで聞いた覚えの有名人 が、友人知人としてひょいひょい顔を出すのにも驚きました。

一方、『星戀』 (深夜叢書社) は、俳人の山口誓子との共著。月ごとに星の 俳句と、句から想起された抱影氏の随筆が並ぶという、亭主好みの豪華な作りです。
「ピストルがプールの硬き面にひびき」 「夏の河赤き鉄鎖のはし浸る」 などの 教科書で見かけた句から、誓子いえばクールで都会的なイメージが強く、星を題材 にしたものがこんなにあるというのは、かなり意外でした。お気に入りを幾つか。

 春の星馥郁たるも遠からじ   花更けて北斗の杓の俯伏せる
 揺るる星宙に繋れり蛍籠   銀河濃き天球を船に戴けり
 誘蛾燈すでに末世の星懸る    星落ちしところかや露濃やかに
 夜を帰る枯野や北斗鉾立ちに   寒き夜のオリオンに杖挿し入れむ

随筆中には誓子の句以外にも、数多の星に関する俳句や、著者自身の句も紹介されて いて嬉しいのです♪

(2004. 3.27)

『天文台日記』 石田五郎 (中公文庫 BIBLIO)

新刊コーナーで、どうも見覚えのある著者名にしばし考え込み、 野尻抱影氏 の 文庫解説文を書かれてた方だと思い当たって、即購入。
元の本の初版は、もう30年以上前。当時世界でも最新鋭を誇った東京大学東京
天文台岡山天体物理観測所 (長い…;) にて副所長を勤めてらした、石田氏の 日記兼随想録といった感じ。

専門的な記述と同時に、天文台業務の裏話的なお話も一杯で、これがと ても楽しいんですよ〜♪ 観測の合間にバッハを聴き、夜食にうどんを茹で、 星にリルケの詩を想う著者に、亭主うっとりです!(笑) また7年ほど 岡山に居たことのある身には、当時の岡山周辺の様子が窺い知れるのも、 興味深かったですね。

こういう分野は日進月歩。理系ネタに疎い亭主にでも、石田氏等の観測方法が、 現在ではいいかげん古式ゆかしいのは一目瞭然。でもそれが返って、「古き良き 時代の天文屋稼業」 といった雰囲気で、個人的にはすごくツボなのです。

ところで。この天文台の側には阿部山っちゅーのがあって、かの安倍晴明に 縁の伝説が残ってる、という挿話が載ってます。土地の古老曰く、 「ここに天文台ができることは、九〇〇年前から晴明先生が知っとん たんじゃ」 だそうです。
・・・さすが晴明様、ブームになる30年も前からこんなトコまで出張ってるよ(爆笑)

(2004. 2.25)

『星とトランペット』 竹下文子 (ブッキング)

ファンタジーの方に書こうかなと思いつつ、『木苺通信』 をこちらのカテゴリーに入れてしまったので、揃えてみました。向こうの追記欄に書いた通り、 この 『星とトランペット』 は長らく絶版状態が続いておりまして、この度 「復刊ドットコム」 よりめでたく復刊がかなった1冊なのです♪
しかも、復刊記念のサイン本が手に入るかもとの情報に、初めてネット通販で本を買った亭主。 なんとほんとにサイン本が当たっちゃいまして、二重に大喜び〜v

11の掌編は、どれも静かで優しい (時に少し哀しい) お話ばかり。
牧野鈴子さんの透明なイラストも、雰囲気にすごく合っていて大好きです。
特にお気に入りは、ラストの 「いつもの店」。 ちょっと他のとは印象が違うお話かとも 感じますが、私としては、此処で食事ができるくらいまで居座って、店主さんと色々 おしゃべりしてみたいのです。

今まで手に入れ損なっていたのよって方は、ぜひこの機会に♪

(2004. 2.25)

『針がとぶ』 吉田篤弘 (新潮社)

クラフト・エヴィング商會 で、主に 物語担当役らしい吉田篤弘さんの連作 (?) 短編集。 『フィンガーボウルの話のつづき』(新潮社)、 『つむじ風食堂の夜』(筑摩書房) に続く、篤弘さん名義では3冊目の本です♪

「針がとぶ」 「金曜日の本」 「月と6月と観覧車」 「パスパルトゥ」
「少しだけ海の見えるところ」 「路地裏の小さな猿」 「最後から二番目の晩餐」

困った。どれも粗筋が説明しにくいんですが(笑)
いや、粗筋自体はある意味すごくそっけないんで、それが逆に(更笑)

この方の書く世界って、どこか全部懐かしいですよね。
でもそれは、個人的には、過去に体験したからの懐かしさとは、ちょっと違う感じ。
例えば、ちゃんと見たことはないけれど、其処にあった筈の懐かしさと言うか、
いつか気がついた時、訪れているかもしれない場所の懐かしさと言うか…。
短編同士がそれぞれ微妙にリンクしている上、他の物語世界とも密かにかぶっている のが、余計にその感を強くしている気がします。

1番のお気に入りは、「パスパルトゥ」。 おかしくて、ほのかにせつなくて、主人公が絵描きさんてのも、やっぱりポイントが 高くなってる理由かなぁ…(笑)

(2004. 1.30)

『コーネルの箱』
 チャールズ・シミック / 柴田元幸 訳 (文藝春秋)

すぐ下で 長野まゆみさん を取り上げてるのが、 ちょうどいいですね。
何がかというと、私がコーネルという芸術家の名前と作品を知ったのは、 長野さんの 『夜間飛行』(作品社) に使われている写真によってなもので。
あとがきで長野さんは、こんな解説を付けてます。

ジョセフ・コーネルは、1903年、ニューヨーク生まれ。何でも 「箱」 の中におさめてみる癖のある大変エネルギッシュな人である。 どの 「箱」 も魅力があり、家にあったらうれしい。

箱の中の、どことなくノスタルジックで、奇妙に凍りついた世界。
確かにこんな不思議なオブジェが家にあったら、亭主はとても嬉しいです。
家族がどう思うかはさておき(笑)

『コーネルの箱』 は、作者のコーネル作品へのオマージュです。
…というのが、多分1番簡潔な説明になるんでしょうね。
コーネルの伝記、コーネル作品に通じる詩や文章、作品からインスピレーションを得ての 物語などなどが、コラージュのように散りばめられています。 勿論、作品自体の写真も沢山。 (実は写真目当てで買ったら中身も当たりだったクチ)

ぱらぱらと本の中を行ったり来たりしつつ、コーネルの箱の中に閉じ込められたかのような 錯覚を楽しむのもいいかもしれません。

(2004. 1.30)

『夏帽子』 長野まゆみ (作品社)

雑誌 『MOE』(白泉社) に93年から連載され、94年に作品社から刊行。
こりゃあどこぞで文庫化されるにしてもずいぶん先の話になっちゃうなぁ…と、 珍しくハードカバーで手元に置いてあったお気に入りの物語が、この度ようやく 河出文庫入りしました。

臨時の理科教師として各地を転々とする紺野先生が赴任先で出会う、少年達との ファンタスティックな交流を描いた18の短篇。どのお話にも、鉱物・天体・理科器材 (および不思議なおやつの数々) が散りばめられていて、とても嬉しいです。
雑誌掲載時にたまたま立ち読みしたのが3篇目。人魚の鱗に灯を点し、吾亦紅の提灯 で雨の山を下るシーンが、本当に印象的でした。

ちなみに亭主、長野さんの作品はすごく好きなのと、ちょっと苦手なのとに見事に 分かれまして、その他のお気に入りとしては、『天体議会』 『三日月少年漂流記』 『魚たちの離宮』(ここまで河出文庫)、 『鉱石倶楽部』(白泉社)、 エッセイの 『玩具草子』(作品社) なんかも中の写真 こみで大好きです。

(2003.10.24)

『色を奏でる』 志村ふくみ (ちくま文庫)

古典の色彩や染色方法に興味がある関係で手に取ったのですが、自然染料で 染めた糸や、それで織った布の写真がものすごく奇麗。決して強くないのに、 ほのかに光を放つような色なのです。写真でこれなのだから、実物はどんな にか…とため息がでます。

植物の世界にはあれほど緑があふれているのに、単独の草木染めでは緑色を 出すことはできないとか、源氏物語で紫のゆかりの女性達に対し、光る源氏の 君は絶妙の補色関係であるとか、とても興味深く読みました。
あと着物のあり方についての文章がとても印象的で、ある知人の装いについて 触れた部分、

粋と気品の溶け合った地味好みで、長襦袢だけがいつも匂うようだった。 濃い臙脂にグレーの縞や、藍に白と茶の更紗風の花の袖口がこぼれるよう なのが美しかった。どこにも売っていない正体不明の、おそらく古径先生が 外国の古裂でも買ってこられたのか、そんな裂で帯も無造作にしめていられた。 その人の眼だけでつくり上げた着物、ひと筋しゃきっとした軸がとおっていて、 抑えても抑えても情のこぼれる装いだった。

この最後の 「抑えても抑えても情のこぼれる装い」 というのにやられてしまい、 しばし陶然。

(2003.10.24)

『海馬が耳から駆けてゆく』 菅野彰 (新書館ウィングス文庫)

先日文庫化された 『海馬が耳から駆けてゆく (2)』 を今読んでるんですけど、 時々休憩入れないと、腹筋が痙攣おこしそうなほど可笑しいです!
以前文庫の(1)を読んだ時あまりに笑えたので、当時まだ単行本だった (2) を 立ち読みしに行ったはいいが無表情を作りそこなって本棚前で呼吸困難に陥る怪しい 人になっちゃった (なら買えって感じだが、文庫になると分かっているエッセイの ハードカバーを買うほどの余裕は亭主には無い) ほど、この方のエッセイって ツボにはまるんだよ〜っ!!

先日読んだ 『極め道』 三浦しをん (智恵の森文庫) も、ある意味同系の爆笑エッセイ (下の 『月魚』 とはえらい違いだ…) でも やっぱりかなり笑ったけれど、あれは一応仕事場で読めたもんね。バイトの子に 「何読んで (そんなにやけた顔して) るんですか…??」 とつっこまれはしたけどさ。
でも 『海馬』 は人前では読めません。だから早く (3) も文庫化して下さい!
お願いします、新書館さんっっ!!(爆)

(2003. 9.19)

『図鑑少年』 大竹昭子 (小学館)

真っ白な表紙に、金で題と作者名を打ってあるだけという、シンプルな装丁に 惹かれて手に取った1冊。あ、題名に惹かれたってのもありますけど。

都会のエアポケット的シーン。日常と非日常がふと交差する瞬間を描いた、 そんな短編ばかり24編。間違い電話や、電車で乗り合わせた乗客や、 アパートの上の階から響いてくる足音や、深夜の循環バスや、そういうもの がモチーフです。
淡々とした白昼夢みたいな、こういう世界はかなり好みだったりします。
それぞれの話には、作者が撮ったモノクロ写真が付いてまして、これが相乗 効果でいい感じです。ぽかりと取り残されたような、奇妙なイメージが。

特に印象に残ったのは、「雨が降る」 「空飛ぶシーツ」 「影の人」 「フェリー」 「最終バス」 …… う〜む、なんか系統がばらばらです(笑)

(2003. 7.24)

『月魚』 三浦しをん (角川書店)

老舗の古書店 「無窮堂」 の3代目真志喜と、せどり屋の息子で現在は卸専門の 古本屋業を営む瀬名垣。古書を愛し古書からも愛され、それゆえに重い過去に捕われ 続ける主人公の2人。
個人的には、古書業界についての記述が楽しいの3割、この2人の微妙な関係が どこまでいくのか気になるの7割、で楽しんでたんですが。
読み方間違ってますかね? そう間違ってないと思うんだけどなぁ…(笑)

2人が本の買い付けに出た先での事件が、話の山場です。
どう山場なのかは、ネタバレになっちゃうので読んでもらうことにして、本筋外の ところだと、買い付け先の家の奥さんが、亡くなった御主人の本を売りに出そうと 決めた理由を語る場面がありまして、ここの奥さんの台詞がとても好きです。 御主人もここまで言われたら本望でしょう。

あと好きなのは、本の題名にもなってる、ラストのあのシーンかな。
すごく奇麗だと思いました。

2人の高校時代を描いた短篇、「水にしずんだ私の村」 も同時収録。
友人の秀郎とみすずちゃんもいいですよね。自分の高校時代のことなどを思い出し、 ちょっと切ない気分になりました。

(2003. 7.24)

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