※ 少しは役に立…ったらいいかもなぁ 其の一 ※
当サイトの戸棚の中で、最も需要のある (=検索がかかっている) のは、
実は役に立たない筈の古典ネタ各種だったりします(笑)
なもので、以前から、もうちょっとだけ真面目な頁も作りたいと
思ってまして、まずは 「古典雑記一」 の流れから、
それなりに役に立ちそうなお話など。
沓冠 (くつこうぶり/くつかぶり) のお仲間に、折り句というがあります。
古典の授業で相当おなじみの 『伊勢物語』 のかきつばたの歌、
覚えておいででしょうか?
・ から衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬるたびをしぞ思ふ
各句の初めの文字を繋げると、「かきつは 〔ば〕 た」 の名が浮かび上がる
仕掛け。この更に高度なのが 「沓冠」。くつとかんむり、
つまり各句の上だけじゃなく、下の文字にも指定がかかるわけですね。
雑記一の引用はこれの笑える例ですが、多分最も有名なエピソードは、
『栄花物語』 にある以下のもの。
時は平安、村上帝の御世。
藤原道長が摂関政治を完成させる少し前の時代、各有力貴族がそれぞれ才色
兼備の娘を后妃として後宮に上げ、君寵 = 権力を競い合っていた
真っ最中あたりのお話です。
ある時、女御・更衣達の元へ、帝より一斉に同じ和歌が届けられました。
・ 逢坂もはては往来の関もゐず尋ねて訪ひ来来なば帰さじ
あんまり上手くない 真意の少し汲み難いお歌だったので、后妃の
皆様は首を傾げつつ、しかしこういう時の返事は待たしてはいけない
ものなので、多くの方が無難なお歌を詠んで返しました。
そんな中でただ一人、広幡御息所 (ひろはたのみやすどころ) 源計子だけは、
この歌の謎かけを解き、薫物 (たきもの…部屋や衣服に燻らす練り香) をお届けになりました。
↓ あふさかも ↓
↓ はてはゆききの ↓
↓ せきもゐす ↓
↓ たすねてとひこ ↓
↓ きなはかえさし ↓
「あはせたきものすこし」 は、「合せ薫物少し」 の意。
この一件により、帝の計子への寵愛は深まったそうです。
その一方で、歌の後半を本気に取り、盛大に着飾って帝の元へ参上
した頭の悪…そのなんだ、えーと、素直な女君もいらっしゃいまして、
帝をがっかりさせておしまいになったとか。
風流を好む帝から、こういうちょっと妙な歌が送られてきた時点で、
ピンとこないといけないってことなんでしょう。
優雅と言えば優雅ですが、教養ひとつで人生の明暗が分かれるんだから、
なんちゅう疲れる世界や;; とも思いますね。
ちなみにこの歌、数年前に完結したとある平安漫画にも使われてました。
うん、いかにもその手のネタになりそうだと、『栄花物語』 斜め読み
した当時から思ってたよ!(笑)
* 出典 『栄花物語』、『村上天皇御集』
* 参考 『源氏の薫り』 尾崎左永子 (朝日新聞社)
(2006. 7. 28)
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